イチジクに愛着がわくかもしれない話

家にある本でイチジクについて調べたことのまとめ2。
果樹にかぎらず、イチジク属のほかの種にも眼を向けてみたの巻

コスタリカにも自生するイチジク

コスタリカの薬草について書かれた本にも、イチジクが載っていました。といってもこちらのイチジクは果樹としてのそれ(Ficus carica)ではなく、絞め殺しの木(strangler fig)というものです。

これは太い樹木や岩に巻きついて育つ、イチジクの仲間の俗称です。鳥などによって種が運ばれ、よその幹の表皮で発芽すると、宿主を覆うように根を下ろし、上方ではやがて宿主の背丈を追い越して日光を占領するようになります。そうなってしまうと、宿主の樹木は日照不足で枯れてしまうためにこの名がついています

本にはFicus glabrataFicus jimeneziiの名が記載されていました。Wikipediaの絞め殺しの木の項目には載っていない植物です(2023年8月18日参照)。和名もないようですね

またもや大腸で役立つ

そしてこの絞め殺しの木がもたらす、白い樹液が鞭虫の駆虫に使われるそうです。鞭虫とはおもに哺乳類の大腸(盲腸)に宿る寄生虫なのですが……イチジクとやらはとにかく大腸にいいようです、今回は果実じゃなくて樹液ですが(前回記事はこちら

ちなみに原本ではwhipwormsという言葉になっていて、 文脈によりますが、分類学上は鞭虫属(Trichuris)全体をさすようです。その中に、ヒトのみに寄生するTrichuris trichiuraという種があります

樹液の使い方は、グラス1杯の水にテーブルスプーン1杯の樹液を混ぜ、朝食前に飲むのを3日間続けるとのことです。分離してきれいに混ざらなさそうですが、どうなんでしょう。あとテーブルスプーンというのがなんだか海外のレシピな感じがしますが、大さじと同じかちょっと少ないくらいでしょうか

地理的分布

地理的分布(Geo-distribution)の項目が、個人的におもしろかったので見てみましょう

… These trees are important pioneer and intermediate species in Costa Rica’s tropical rainforests. They are found in most of the country’s primary and secondary forests, principally near rivers; they are also planted in parks and town squares.

Ed Bernhardt ”Medical Plants of Costa Rica”, A Zona Tropical Publication(2008), p.100

これらの樹木はコスタリカの熱帯雨林において重要な先駆種あるいは中間種である。国内のほとんどの原生林や二次林で見られ、大抵は川の近くに生えている。公園や町の広場にも植えられる。といったところでしょうか

どこがおもろいねん、と思われたでしょう。私が感心したのは、イチジクという原始的な特徴をもつ樹木が、遷移においてもその初期に現れるということです

樹木の進化

原始的な樹木は、海にいた祖先から体制を受け継いだ、樹木ではない陸上植物が祖先であって、設計やかたちが不適当なまま歩み出したのである。

E. J. H. Corner “The Life of Plants”, The University of Chicago(1964)(E. J. H. コーナー著 大場秀章・能城修一訳「植物の起源と進化」, 八坂書房(1989), p.152)

波間にゆらめく海藻は、そのからだに海とおなじ水を抱えながら、しっかりとした表皮でそれを守ってゆくことで陸への進出を果たしました。これまで海水を介して得ていた日光も、酸素も二酸化炭素も、直接その肌に受けることになります。ものすごい勢いで光合成は進み、次々と作り出される糖類は細胞に蓄積され、海藻からは想像もできないほどたくましい姿へと変わります

しかし陸上で背丈を高くすることはとても難しいことでした。大きくなればなるほど乾燥に晒されてしまうので、それを防がなければなりません。自分のからだを支えなければなりません。土壌中の水分を、光合成を行う葉まで汲み上げなければなりません。それゆえ、まずは背が低くて、枝分かれのない、あるいは少ししかしない樹木ができあがります。大形の葉がズングリとした幹についている、木生シダやソテツ類のような樹木です

これらの原始的な樹木には、弱点がいくつかあります。一度芽や葉がダメになってしまうと、大きいだけにつくり直すのに時間がかかってしまいます。さらに大形の葉と太くて樹液の豊富な枝は、霜が降りると簡単に死んでしまいます

やがて進化した樹木は、何千という小さな葉を何百という小枝につけるようになります。小さな葉や細い枝にすることで、取り替えるのが簡単になりました。そしてはじめはひょろりと頼りなさげでも、先に背を高くして、すぐに原始的な樹木を追い越します。二次肥大成長によって、後から幹を太くして、結果的に見上げるような巨木へと変貌します

この両極端のものに挟まれて、中間的な特徴をもったさまざまな樹木が生息地を争います。さまざまな改良段階に留まったまま、森林内の適当な隙間に入りこんで生き延びているのです

イチジクの矛盾と、原始的な樹木の分布

イチジクの仲間にはさまざまな改良段階の種が含まれていますが、すべて白い樹液をもちます。比較的大きな葉をもっていたり、横に広がる樹形だったりと、上記の内容からみて原始的な特徴をもっています。それでも退行的進化という現象もありますし、ほんとうに原始的かどうか私にはわかりません

ところで前回の調べでは、イチジク(Ficus carica)は暖かくて乾燥した地域を好むとありました。今回見たところでは熱帯雨林、しかも川の近くに生えるということで、暖かいはともかく、乾燥という点では矛盾しています

ここで、コーナーはこんなことも書いています

原始的な樹木はどこに生えているのだろう。一つはすでに述べたように森の陰であって、大形の葉をつけた優勢の樹木の若木に似た格好で生えている。もう一つは空き地であって、太陽をまともに浴びて先駆種として生えており、やがて森林性の樹木の実生がその間から伸び出してくると置きかえられてしまう。

E. J. H. Corner “The Life of Plants”, The University of Chicago(1964)(E. J. H. コーナー著 大場秀章・能城修一訳「植物の起源と進化」, 八坂書房(1989), p.158)

つまり原始的な樹木は、その先駆種たる逞しさゆえに、太陽の恵みがまずしい場所でも、逆に日差しが強すぎて乾燥と熱のきびしい場所でも生き延びてゆけるのです。露出した、乾燥しがちな土地へと道を切り拓くことは、すなわち遷移です

イチジク(Ficus carica)が乾燥を好むというのは、矛盾というより、先駆種としての素質なのでしょう。乾燥した土地で育て続けることで、乾燥を好むようになったのかもしれません。うちのイチジクの札には、あまり土を選ばないと書いてありました。おそらく水辺に植えても育つような気もします。古代エジプト文明が栄えたのは、肥沃な三日月地帯とも言いますし。イチジクはやはり、すべてそうとは言えないにしても、原始的な樹木とみなしていいかもしれません

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